鬼畜王ランス外伝 〜 殻の中の小鳥
1
リーザスは落ち着きを取り戻していた。
ヘルマンとの全面戦争もラング・バウの陥落により終結した。
大袈裟な祝勝パレードが開かれ、国中陽気だった。
不自然なくらいに…。

国民は知っていた、どんなに騒いでも心の中の灰色のもやを
払拭できないことを…
だが、ばか騒ぎする以外になにが出来るのだろうか?

そう、国王はあの男なのだから…
2
「こわい…」

かすかに月明かりが差し込むベッドの上で少女は震えていた。
昼間は、どうしてあんなことを言えたのだろうか?
枕を抱きしめ体を丸めている自分が本当の自分なのに。
「アールコート、本当にいいの? 士官学校、やっていける?」
「お母さん、私やってみようと思うの、自分に自信がもてるようになりたいの。」
しっかりねっと手を握る母親に笑顔で答えたアールコート、
まるで演劇をみているように思い浮かべている。
主役の彼女はここには居なかった。
心の中にいるもう一人の自分…
「もう一人の自分?」
『ちがう…たんなる憧れ、私と同じ姿をした知らない誰か、そんな人いない…』
アールコートにできるのは、自分を責める他人になることだけ
他人になって自分を非難する…
そうしないと心が壊れる。
いつのまにか鳴咽は寝息にかわっていた。
3
アールコートはリーザス城下町まで来ていた。
一月も続いた祝典も今日で終わりとなる。
そして女子士官学校の栄えある第一期生の紹介があるのだ。
それがアールコートの目的だった。
代表と思われる緑の髪の女生徒が演説を行なっている。
はっきりとした口調で堂々としている。
「しっかりした女の子だ、将来はレイラ親衛隊長の様な勇敢な将になるだろうな」
となりにいた男が期待をこめ、そうつぶやくと周りの者も同調した。
「私は、あんな風には…」
アールコートは気がついた、女子士官学校に行くことは国中の人から
期待されることになることを。
逃げるように他の場所に移る。
こちらでは若い男の集団がなにやら話していた。
「あんな可愛い女の子に戦争ができるのか? 無理じゃないのか」
男たちは出し物をみるような目で演説を聞いていた。
『あぁ、期待されているとは限らないんだ。』
ほっとしているアールコートの耳にさらに言葉が続く。
「おれたちの血税をなんなちゃらちゃらしたものに使いやがって、大体王様はよう…」
「おい、よせ、誰かに聞かれたらまずいぜ、あの王様だぞ!!」
男たちはあわてて周りをみる。
アールコートはとっさに視線をはずしたが男たちに見つかってしまった。
「お嬢ちゃん、おれたちの話、聞いていたのか?」
アールコートはうつむいたまま首を振る。
しかし脅えたしぐさが男たちに悟らせてしまった。
「ちょっとこっちへ来てもらおうか」
そう言うと一人がアールコートの手首を握って人気の無い
木陰の方への引っ張っていく。
恐怖で声のでないアールコートは成すがままに男たちに連れて行かれた。
どん、とアールコートは壁に押し付けられる。
3人の男たちに囲まれどうすることも出来ない。
一人は離れた場所で見張りをやっているようだ。
「…ぃ、いいません、ですから、ゆ、ゆるして。」
精いっぱいの勇気で声を出した。
だが、それが報われることはなかった。
「なに、よく聞こえんぞ、なに?、いいませんだと、やっぱり聞いていやがったんだな。」
アールコートの目の前にいる男が睨み付けながら怒鳴る。
他の男たちはにやけながらそれを見ている。
「俺達のことを話せないようにしないとなぁ。」
そう言いながらアールコートの胸を乱暴に掴む。
「今日のことを思い出したくも無いようにしてやるぜ。」
他の二人もアールコートに襲いかかる。
一人の手がスカートの中に潜り込んだ。
「ひ、」
叫び声をだそうとしたが口を手で押え込まれる。
ぞわりとする感覚が首筋に走る。
男の舌が白い肌をなぞって行く。
アールコートの目には涙が溢れ出している。
「随分と小さな胸だな。」
服の上から円を描くように動かす。
「奇麗な洋服は破らないでおいてやるからな。」
そう言いながら服のボタンを一つずつ外していく。
三つ目のボタンが外された時、アールコートは目を背けた。
白い肌があらわになった。
アールコートはぎゅっと目を閉じたままだ。
以前も味わった羞恥。
学校でいじめられ裸にされた。
閉じられた瞳にはその時の光景がはっきりと映し出される。
それを打ち消すように目を開けるが
あるのはその時以上の現実。
『もう逃げられない…現実からも過去からも…』
急に男の声が響く。
「お嬢ちゃん、幾つだ? 随分発育が悪いんじゃないか?」
アールコートの小さな膨らみを直に触りながら言う。
「…じゅう、14です。」
周りに男たちの動きが止まる。
「おい、まだガキだぜ。」
横の二人が顔を見合わせる。
14歳の少女ならここまですることもなかった。
二人はバツが悪そうだ。
「悪かったなお嬢ちゃん、やっちまうのは可哀相だ。」
アールコートは安堵する。
「それじゃぁ…お家にかえって…」
「いや、責任を取ってもらってからだ。」
そういうと目の前の男はベルトを緩め
自分のそそり立ったものを取り出した。
「きゃああ」
アールコートは目を背ける、初めてみる男のものに恐怖した。
「手でも口でも構わないぜ、嫌だって言うんなら仕方ないがやっちまうぜ。」
アールコートには選択支は無かった。
恐る恐る手を伸ばす。
しかし触れたとたん、脈打つ熱さに思わず手を放してしまった。
男はアールコートの手首をとり無理矢理握らせる。
他の二人はついていけないようで、見張りが入るところまで戻って
見張りの男と話している。
男はアールコートの掌をつかって自分自身をしごいている。
「いいぜ、お嬢ちゃんの掌は気持ちがいい。」
アールコートの耳にはその声は聞こえていない。
今の現実を打ち消すため、過去の辛い経験を思い出している。
『怒られた…嫌われた…叩かれた…嫌われた…苛められた…逃げ出した…嫌われた…嫌われた…』
過去の辛さで今を忘れようとしている。
嫌だった過去が今は貴重に感じている。
………
急に男の手が離れた。
男の両手がアールコートの頭を押え込む。
「口を開け…」
うめくような声とともに
アールコートの目の前に男の一物が突きつけられている。
「いやぁぁぁあああ!!」
アールコートは自分でも信じられない声を上げると男を跳ね飛ばした。
「いや、いや、いや、いや、いやぁ…」

服を押さえながら一目散に走って行く。
決して後ろを振り返らない。
男たちが追って来ているかも分からない。

…気づくと見慣れた自分のベッドの上に座っていた。
部屋には月明かりがやさしく射し込んでいた。
4
弱い私…、弱い私…、弱い私…

ベッドの上でがばっと身体を起こす。
身体は汗でびっしょりで、長い髪の毛が顔に纏わりつく。
髪をかき上げながら自分の掌を見つめる。
私どうしてここにいるの?
あんなに堂々としていたラファリアさんじゃないの?
ここにいるの、本当は?
私でいいの? どうして私を選らんだの…
私がリーザスの副将なんて…
嫌な過去を忘れられない…もっと酷い目に会わないと。
でも、もうあれ以上のこと耐えられない。
どうしたら忘れられるの、誰か忘れさせて…おねがい。
その誰かがアールコートには分かっていた。
そしてそれが叶わないことも。
…そうだ今夜、王様に呼ばれていたんだ…

「王様…」
アールコートは小さく呟いた。
掌には、ランスから貰った貝が握られていた。

−おしまい−
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